デジタルアートの歴史を親子で辿ろう:昔と今の違い

デジタルアートは、コンピュータやタブレットなどのデジタル技術を使って制作される美術作品の総称です。スマートフォンで描いたイラストや、プログラムを使ったグラフィック、そしてインタラクティブな展示やVR作品まで、その表現形式は多種多様。これまでは一部の先端的な分野として見られていた時期もありましたが、今や美術館の展示やオークションでも大きな注目を集め、子どもたちにとっても身近なアートのひとつになっています。

しかし、デジタルアートがいつ、どのように始まったのかを知っている人は意外と少ないかもしれません。そこで本コラムでは、デジタルアートの歴史をたどりながら「昔」と「今」の違いを解説し、さらに親子で楽しめる体験方法や、これからの可能性についても紹介します。小学生のお子さんにもわかりやすいよう、なるべく専門用語を平易にまとめました。親子で読んで、ぜひワクワクする未来のアートを一緒に想像してみてください。

目次

デジタルアートのはじまり

コンピュータが登場しはじめたのは第二次世界大戦後の1940年代。まだ部屋いっぱいの大きさで、計算をするにもパンチカードを使っていた時代です。そんな黎明期から、すでに「この機械を芸術に使えないか?」と考える研究者やアーティストがいました。たとえば1950年代には、数学者のベン・ラポスキーがオシロスコープ(波形を見る装置)を使って幾何学模様を描き、それをフィルムに記録する試みをしています。

1960年代になると、アメリカのジョン・ホイットニーなどが大型計算機を使った作品を発表し、「コンピュータアート」と呼ばれる動きが徐々に注目されるようになりました。そして1968年、イギリスのロンドンで世界初のコンピュータアートの展覧会が開催され、一般の人が「コンピュータで描かれたアート」というものを目にする機会が生まれます。当時はまだ単純な線や点を組み合わせただけの抽象的な作品が多かったのですが、それまでになかった表現方法として大きな話題を呼びました。

進化と普及

1970年代に入り、コンピュータが少しずつ大学や研究所だけでなく企業などにも広がり始めると、描ける画像の解像度も向上し、より複雑な形や陰影を表現できるようになります。アーティストやデザイナーたちは研究者と協力しながら、線や点のアートから立体感のあるCG作品へと進化を遂げました。

やがて1980年代には、パーソナルコンピュータ(PC)が一般にも徐々に普及し、グラフィック処理が格段に進歩。Photoshopのような画像編集ソフトが登場して、個人でもデジタルでイラストを描いたり写真を加工したりといった作業が可能になります。さらに90年代に入ると、インターネットが急速に広がり、デジタルアートがオンライン上で公開される機会も増加。もはや美術館やギャラリーだけでなく、自宅のパソコンからでも作品を発表・鑑賞できる時代になったのです。

こうした技術の進歩を背景に、2000年代にはプログラミングで画像を自動生成する「ジェネレーティブアート」が注目を集め、また映画やゲームの3DCG技術が大きく進化しました。子どもたちにも馴染み深いキャラクターが画面の中でリアルに動くようになったのは、この頃の技術発展が大きなきっかけです。

昔のデジタルアートと今の違い

技術面の変化

昔のコンピュータは性能が低く、グラフィックを描くには膨大な時間や専門的な知識が必要でした。ドットをひとつずつ指定して絵を作り上げたり、専用の描画マシンを研究所で借りて作業したりと、ハードルはかなり高かったのです。今ではタブレットとタッチペンさえあれば、誰でも直感的にデジタルイラストを描けるようになりました。プログラミングをする場合も、初心者向けのサービスやソフトが充実し、子どもでも気軽に3Dモデルを作ることができるようになっています。

表現の広がり

当初は線や点で描く抽象的な作品がメインでしたが、やがて油絵そっくりのタッチのデジタルペインティングや、驚くほど写実的な3DCGまで表現が可能になりました。さらに、インタラクティブに観客が参加できるアートや、VR空間に入って体験するアートなど、デジタル技術ならではの作品が次々と登場。昔の「画面に表示して終わり」だった時代とは異なり、作品そのものが空間を生み出し、そこに観客が飛び込んでいくようなアートが増えています。

社会的な評価

かつては「コンピュータで作った作品は手作りじゃない」と批判されることもありましたが、いまやデジタルアートは美術館での展示も当たり前。オークションではNFT(非代替性トークン)を使ったデジタル作品が数十億円で落札される事例も出てきました。市場としても大きく成長し、ITベンチャーやクリエイティブ企業がデジタルアーティストを積極的に支援する動きも活発化しています。

最新トレンドと注目の表現

没入型アート・インタラクティブアート

部屋全体をスクリーンにして光と映像を投影し、鑑賞者が自由に歩き回れるような展示が世界中で人気を集めています。日本発のチームラボはその代表例で、花や魚などが映し出される広大な空間の中で、自分の動きに反応して映像が変化していく作品を数多く発表しています。子どもが描いた絵を取り込んで、スクリーンの世界に浮かばせるコーナーは特に大人気。まさに「体を使ってアートを体験する」スタイルが注目され、海外からも訪問者が絶えない状況です。

VR・ARを活用したアート

ゴーグル型のデバイスをかけて、仮想空間の中に自分で絵を描く「VRアート」をライブパフォーマンスで披露するアーティストも現れました。まるで空気中にペンで線を引いているような光景は、まったく新しいアートの誕生を感じさせます。AR(拡張現実)を使えば、スマートフォンのカメラを通して現実の風景にデジタルの要素を重ね合わせることも可能。街中の壁にアートを「重ねる」ように出現させる企画など、未来型の展覧会も少しずつ増えています。

AI・生成系アート

AIに学習させることで、これまでにない作風の絵や音楽を自動的に生成する「生成系AIアート」も今や注目の的です。特に2022年以降は、数多くの画像生成AIが無料で公開され、誰でもキーワードを入力するだけで絵を描いてもらえるようになりました。AIが出力した画像をベースに人間の手で仕上げるなど、新しい創作方法が生まれています。その一方で、著作権や「アートとしての価値」についての議論も活発化。今後は、AIと人間が共創する形のアートが一層広がるとも予想されています。

親子で楽しむデジタルアートの体験

子どもがデジタルアートに触れるメリット

お絵かきや工作など、アート活動は子どもの創造力を伸ばす大切な機会です。デジタル技術を使うと、単に描いたり塗ったりするだけでなく、写真を加工して遊んだり、プログラミングで動きを与えたりと多彩な表現が可能になります。たとえ失敗しても「元に戻す」機能があるので、やり直しが容易なのも大きな魅力。何度でも試行錯誤できるため、自分なりのアイデアをどんどん形にしながらITへのリテラシーも身につけられます。

おすすめの親子体験アイデア

  • お絵かきアプリでイラスト
    タブレットやスマホに入れられる無料アプリ(アイビスペイント、メディバンペイントなど)を使って、親子で気軽にお絵かきしてみましょう。背景をレイヤーで分けたり、塗りつぶし機能で簡単に色を塗ったり、デジタルならではの楽しさを実感できます。
  • ドット絵に挑戦
    昔ながらのドット絵は、マス目の一つひとつを塗っていく作業なので、小学生でも取り組みやすいです。方眼紙でイメージを作り、それをパソコンで拡大・縮小してみると、ドットがどう画面に表示されるか学べるメリットもあります。
  • Scratchで動くアニメーション
    子ども向けプログラミング環境のScratchを使えば、絵に動きを付けることができます。たとえばネコのキャラクターを左右に動かしたり、クリックすると色が変わる仕組みを作ったり。作品をオンライン上に公開すれば、他の子の作品も見られるので刺激にもなります。
  • 写真加工でアート作品づくり
    撮った写真をアプリで油絵風に加工したり、スタンプを押して装飾するのも立派なデジタルアート体験です。家族の写真をポップアート風にして、オリジナルの壁飾りを作るなど、飾り方にも工夫してみると一層楽しめます。

これからの可能性

デジタルアートは、この先さらに身近なものになると考えられています。VRやARによって「画面の中の作品」だったものが、私たちの周りの空間にまで広がり、まるでテーマパークのような体験型アートが増えていくでしょう。インターネット上の仮想空間「メタバース」が普及すれば、遠隔地にいる友だちと一緒にバーチャル美術館を回りながらアート鑑賞をする日が来るかもしれません。

またAIやプログラミングの技術は日々進化しており、子どもが大人になる頃には「AIを相棒にして作品を作ること」が当たり前になっている可能性もあります。今でも、自分の描いた線画をAIに読み込ませて、そこに自動で色を塗ってもらうサービスも登場しています。こうした動きは、アートの価値や定義について私たちに新たな問いを投げかけますが、同時に誰もが創作を楽しめる未来を広げてくれています。

デジタルアートの世界では、技術革新とともに新しい表現が次々と生まれてきました。それは単なる「便利な道具」ではなく、人間の想像力を飛躍させ、世界の見え方や感じ方を変えてしまうほどのインパクトを秘めています。親子で一緒にデジタルアートに触れることは、子どもが将来自分のアイデアを自由に発揮するための大きな一歩にもなるはずです。

楽しみ方に正解はありません。まずはタブレットでお絵かきにチャレンジしてみるのもよし、没入型アートの美術館に足を運んでみるのもよし。好奇心の向くままに「これ面白そう!」を試してみることが、デジタルアートの醍醐味といえるでしょう。昔から今へ、そして未来へと進化し続けるデジタルアート。あなたとお子さんが一緒に進む、その先にはまだ見ぬワクワクがきっと待っています。

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