デジタル時代の子育て:学校ICT教育とデジタルデザイン、それぞれの価値とは?

GIGAスクール構想によって、子どもたち一人ひとりがタブレットやパソコンを手にする時代になりました。学校でのICT(情報通信技術)活用は当たり前になりつつありますが、一方で「うちの子、もっと創造的なことに挑戦させたい」「プログラミングやデザインに興味があるみたいだけど、学校の授業だけでは物足りない?」と感じている保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

学校で学ぶICT教育と、専門的なスキルを学べるデジタルデザインスクール。これらは一体何が違い、子どもたちの将来にどのような影響を与えるのでしょうか。今回は、それぞれの特徴と価値を探りながら、デジタル時代における子どもの可能性を広げるヒントを探ります。

目次

学校のICT教育は何を目指している?:社会を生き抜くための基礎体力

日本の小中学校におけるICT教育は、新しい時代に不可欠な能力を育むための土台として位置づけられています。文部科学省の学習指導要領では、「情報活用能力」が、国語や算数と同じように「学習の基盤となる資質・能力」と定められています。特定の教科だけでなく、あらゆる学習活動を通して身につけるべき力とされているのです。

具体的には、以下のような目標が掲げられています。

  • 基本的な操作スキル: パソコンやタブレットの基本的な使い方、文字入力などを習得すること。特にキーボード入力は、情報を効率的に扱ったり、自分の考えをまとめたりする上で重要視されています。
  • プログラミング的思考: プログラミング言語を覚えること自体が目的ではなく、物事を順序立てて考え、試行錯誤しながら問題を解決していく論理的な思考力を養うこと。これは将来どんな仕事に就いても役立つ力と考えられています。
  • 情報モラルとセキュリティ: インターネット上のルールやマナー、著作権、個人情報の大切さ、そしてネットに潜む危険性を理解し、責任ある行動がとれるようにすること。
  • 情報活用能力: 課題に応じて必要な情報を自分で探し出し、整理・分析して、効果的に表現したり、相手に伝えたりする能力。

GIGAスクール構想により、一人一台端末という環境は整いましたが、実際にはタイピング速度がまだ十分でないなど、基礎的なスキルの定着には課題も見られます。また、学校のICT教育は、特定のデザイナーやエンジニアを育てることを目的としているわけではありません。あくまで、すべての児童生徒が情報社会に適応し、主体的に活動していくための「基礎体力」を身につけることを目指しているのです。これは、デジタル時代の「読み・書き・そろばん」とも言えるでしょう。

デジタルデザインスクールとは?:「好き」を専門スキルへ

学校のICT教育が広く基礎的な力を養うのに対し、子ども向けのデジタルデザインスクールは、特定のクリエイティブ分野に特化して、専門的なスキルと感性を育む場です。

スクールによって内容は多岐にわたりますが、主に以下のようなコースがあります。

  • デジタルイラスト・アート: iPadとペンを使い、キャラクターデザインやイラストの描き方を学びます。ProcreateやIbisPaintといった人気のアプリを使うことが多いです。
  • グラフィックデザイン: ロゴやポスター、チラシなどを作るためのデザインの基礎、レイアウト、色彩感覚などを、PhotoshopやIllustratorといったプロも使うソフトで学びます。より手軽なCanvaから始めるコースもあります。
  • Webデザイン: Webサイトがどのように作られているのか(HTML/CSS)、簡単な動き(JavaScript)などを学び、実際に自分のWebサイトをデザイン・制作します。
  • 映像制作: 動画の撮影や編集スキルを学びます。
  • プログラミング統合型: プログラミングとデザインを組み合わせ、ゲーム制作やWebアプリケーション開発などを学びます。

これらのスクールでは、業界で標準的に使われている専門的なソフトウェアやツールを使用することが一般的です。学校で配布される端末だけでは対応が難しい場合もありますが、プロと同じ環境で学ぶことで、実践的なスキルが身につきます。指導にあたるのは、現役のデザイナーやクリエイターであることが多く、最新の技術や業界の動向に触れられるのも大きな魅力です。

対象年齢も、未就学児から中高生まで様々で、多くはオンライン形式で、自宅から個別指導や少人数グループで学べるようになっています。送迎の手間がなく、地方に住んでいても質の高い教育を受けやすいのがメリットです。

デジタルデザインスクールが目指すのは、単なるツールの使い方を教えることだけではありません。専門技術の習得はもちろん、子ども自身のアイデアを形にする「創造性」や「表現力」を伸ばし、学習の成果として作品集(ポートフォリオ)を作り上げることを重視します。このポートフォリオは、将来の進学や就職活動で自分のスキルを証明する大切な武器になります。さらに、作品制作を通して、目標達成能力、問題解決能力、自己肯定感といった「非認知能力」を育むことも目標として掲げられています。

どこが違う?学校ICT教育とデジタルデザインスクール

学校のICT教育とデジタルデザインスクールは、目的も内容も大きく異なります。その違いを整理してみましょう。

  • 学びの広さと深さ: 学校教育は、全員に必要な基礎知識を広く浅く学びます。一方、デジタルデザインスクールは、特定の分野を狭く深く掘り下げ、専門性を高めます。
  • 目指すスキル: 学校教育が目指すのは、どんな場面でも役立つ汎用的な「情報活用能力」や「論理的思考力」です。デザインスクールは、イラスト制作、Webサイト構築といった、特定の分野で通用する「専門スキル」の習得に焦点を当てます。
  • 創造性へのアプローチ: 学校教育では、プログラミング的思考など、論理的な問題解決プロセスの中で創造性が育まれると考えられています(暗黙的)。デザインスクールでは、アイデア発想、表現技法の探求、オリジナリティの追求など、「創造性」そのものを明示的な目標として、デザイン思考やアート的感性を重視します。
  • 技術トレンドへの対応: 学校教育で使われる機材やソフトは、全国規模での標準化や安定性が重視されるため、必ずしも最新ではありません。デザインスクールは、業界のトレンドに敏感で、プロが使う最新のツールや技術を比較的早く取り入れる傾向があります。

このように、両者は異なる役割を持っています。学校ICT教育がデジタル社会の基礎インフラを整える役割だとすれば、デザインスクールは特定の興味関心を持つ子どもたちが、その才能を専門的に伸ばしていくためのアクセルやエンジンを提供する役割と言えるでしょう。

デジタルデザインを学ぶことの価値:将来への可能性を広げる

学校のICT教育で身につけた基礎力は、高校や大学での学習、そして社会に出てからのあらゆる仕事で必ず役立ちます。レポート作成、情報収集、コミュニケーションなど、デジタルツールを使いこなす能力は、現代社会の必須スキルです。

一方、デジタルデザインスクールの学びは、特にクリエイティブな分野に興味を持つ子どもにとって、より直接的なメリットをもたらします。

  • 専門分野への進学に有利: 美術系・デザイン系の学校を目指す場合、質の高いポートフォリオは合格への大きな後押しとなります。早期から専門分野に触れることで、学習意欲も高まります。
  • クリエイティブ職への道筋: デザイナーやイラストレーター、クリエイターといった職業に必要な実践的スキルを早くから身につけることができます。業界標準ツールへの習熟は、就職活動でも有利に働くでしょう。
  • 自己表現と自信の獲得: 自分のアイデアを形にし、質の高い作品を創り上げる経験は、大きな達成感と自信につながります。これは他の学習や活動への意欲にも良い影響を与える可能性があります。
  • 現役プロからの直接指導: 業界の最前線で活躍するプロから直接学べる機会は、貴重な刺激となり、将来のキャリアを考えるきっかけになります。教科書だけでは得られない、生きた知識や考え方に触れることができます。
  • 同じ興味を持つ仲間との出会い: 共通の関心を持つ仲間と交流し、互いに刺激し合いながら学ぶ環境は、モチベーションを高め、新たな視点を与えてくれます。

学校教育が提供する基礎力は、すべての子どもにとって重要です。その上で、デジタルデザインスクールは、特定の分野で輝きたいと願う子どもたちの夢を、具体的なスキルと成果に結びつけるための道筋を示してくれるのです。

子供の未来のために:教育の選択肢を考える

学校のICT教育とデジタルデザインスクールは、どちらが良い・悪いというものではなく、それぞれに重要な役割と価値があります。両者は対立するものではなく、むしろ補完し合う関係にあると言えるでしょう。

もし、お子さんが絵を描くことや、ものづくり、コンピュータを使った表現に強い興味を示しているなら、デジタルデザインスクールは、その才能を大きく伸ばすための有力な選択肢となるかもしれません。専門的なスキルはもちろん、プロから直接指導を受けられる環境、ポートフォリオという目に見える成果、そして同じ興味を持つ仲間との出会いは、学校教育だけでは得難い大きな価値をもたらします。

ただし、スクール選びで最も大切なのは、お子さん自身の「やりたい!」という気持ちです。興味や関心、そして学習スタイルに合ったスクールかどうか、体験レッスンなどを活用しながら、親子でじっくり話し合って決めることが重要です。また、受講料や必要な機材、学習時間の確保など、家庭環境とのバランスも考慮する必要があります。

学校教育という共通の土台の上に、お子さん一人ひとりの個性や情熱に合わせて、最適な「プラスアルファ」の学びを見つけてあげること。それが、変化の激しいデジタル時代において、子どもたちの可能性を最大限に引き出すための鍵となるのではないでしょうか。

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